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🎬 『HOUSE ハウス』レビュー
『HOUSE ハウス』は、1977年に大林宣彦監督が放った、まるで夢と悪夢が混ざり合ったような幻想的ホラー映画である。
公開から何十年経った今もなお、その独創的な世界観と映像表現は色褪せることなく、多くの人々を魅了し続けている。
本作は、単なる恐怖映画ではなく、「映画」という芸術の自由と遊び心を最大限に表現した映像詩とも言えるだろう。
🏡 不思議な屋敷へ誘う物語
物語は、女子高生のオシャレたちが夏休みに祖母の屋敷を訪ねることから始まる。
最初は明るく無邪気な青春映画のように進むが、やがて屋敷に潜む異様な気配が少しずつ姿を現す。
現実と幻想の境界が曖昧になり、時間と空間の感覚が歪む中で、観客は“映画の中に取り込まれる”ような感覚を味わう。
大林監督は、恐怖を通して人間の内面や感情を映し出し、単なる怪奇ではなく「心の風景」として描き出している。
🎨 独創的な映像美
『HOUSE』の最大の魅力は、その映像表現にある。
CGが存在しない時代に、監督はアニメーション、マットペイント、ストップモーションなど多様な手法を組み合わせ、まるで絵本のような不思議な映像世界を生み出した。
少女たちの笑顔、空に舞う鮮烈な色彩、歪んだカメラワーク――それらがひとつに溶け合い、観る者を現実から切り離す。
その映像は、恐ろしいはずなのにどこか懐かしく、まるで子供の頃に見た夢の断片のようでもある。
💭 テーマとメッセージ
この作品は、表面的にはホラーでありながら、深層には「喪失」「記憶」「生と死」「少女の成長」という普遍的なテーマが流れている。
屋敷の中で起こる奇妙な出来事は、恐怖そのものではなく、過去の痛みや家族の記憶の象徴でもある。
大林監督は、恐怖とユーモアを織り交ぜながら、人間の心の奥に潜む感情を映像として可視化している。
その詩的な表現は観る人の想像力を刺激し、観るたびに異なる意味を見出すことができる。
🎵 音楽とリズム
本作の音楽は軽やかでポップでありながら、映像との対比によって奇妙な緊張感を生み出している。
明るいメロディが流れる中で恐怖が静かに忍び寄る。その不協和が観る者をより深く物語の中へ引き込む。
大林監督が持つ独特の「リズム感覚」は、この作品全体をひとつの詩やダンスのように感じさせる。
💿 永遠に色あせない名作
『HOUSE ハウス』は、今見ても斬新で、新しい。
映像の奇抜さの中に、日本的な情緒とユーモアが見事に共存している。
恐怖の中に美しさがあり、笑いの中に哀しみがある。
それはまさに、大林宣彦という映画詩人の世界観の結晶である。
この作品は、ただ観るものではなく、“体験する映画”だ。
夢のようで、悪夢のようで、それでもどこか優しく心に残る。
『HOUSE ハウス』は、映画が持つ魔法の力を改めて感じさせてくれる、日本映画史における不滅の傑作である。